Faculty of Nursing
更新日:2021年07月09日
研究紹介
【看護学部】研究への扉 第7回 ~患者さん本人や家族といった『当事者』にとことん寄り添う研究に取り組んでいます~
看護学部教員の研究紹介「研究への扉」 第7回です。今回は、地域在宅看護学領域の河原智江先生からご自身の研究についてご紹介いただきます。
Q1:研究のテーマを教えて下さい。
私は、いくつかのテーマを持って研究に取り組んでいます。その中でも、研究の一番の柱にしているのは、セルフヘルプグループ注1)に関することであり、『当事者』という立場に可能な限り近づいていくことを重視しながら、以下の2つの観点から研究を進めています。
【観点①】メンバー個人に対して、グループメンバー同士の支え合いが与える影響とその影響を受けて個人がどのように変化していくのかということを検討しています。
【観点②】メンバー個人の変化が、グループの発展にどのような影響を与えるのかということを検討しています。
注1)セルフヘルプグループ(自助グループ)とは、同じような悩みや課題をもった人がお互いに支え合う組織で、病気や障害をもつ患者さんの会やその家族の会などがあります。
Q2:なぜ、この研究に取り組もうと思ったのですか?
私は大学3年生の時に、精神障害注2)を持ちながら地域生活を送っている人々に対して、保健所が行っていた自立のための支援プログラムの事業のひとつである1泊2日のキャンプに参加しました。その支援プログラムに参加しているメンバー全員から、「支援プログラムに参加して“仲間”と一緒だから、病気と向き合うことができる。」というお話を伺ったことや、保健所の保健師?事務職スタッフから、支援プログラムに参加してからのメンバーそれぞれの変化や成長について教えて頂いたことが、とても心に残りました。
また、その際に、家族会の活動にも参加することができ、家族からも、「同じ悩みを持つ家族同士だからわかりあえるし、自分ひとりじゃないということで力がわいてくる。」ということも伺いました。
それらのことがきっかけとなり、大学4年の時に、精神障害者家族会に焦点をあてて卒業研究として取り組み、以降、セルフヘルプグループの研究が私のライフワークになりました。
注2)ここでは、「障害」という表記にしています。
Q3:どんな方法で研究を行っているのですか?
研究対象は、特定の病気や障害に特化したグループにはしていません。患者さん本人の会、あるいは、家族の会に限定するということにもしていません。研究目的により、対象となるセルフヘルプグループが変わります。現在、対象としているのは、精神障害をもつ患者さん本人の会、医療的ケア注3)が必要な障害をもったお子さんをもつ家族の会です。
研究方法として、セルフヘルプグループのメンバーの個々の体験をまとめていくときには、直接、メンバーひとりひとりにインタビューを行い、その内容を詳細に分析していきます。グループメンバー同士のやりとりやコミュニケーションなどについて検討する場合は、その状況を私自身の目で観察してフィールドワークをしたり、ビデオ等で撮影をして映像を分析することもあります。
また、規模の大きい調査(例えば、全国的調査など)を行う場合は、アンケートを作成し、対象者にそれに回答してもらい、その結果を分析します。最近では、Webでアンケートを行う機会が増えています。
いずれの方法であっても、調査を行う場合は、事前に、研究対象となる人たちには、十分に説明をして納得して頂き、同意を得てから実施することが重要なポイントになります。
注3)医療的ケアとは、口から食事ができないため鼻にチューブを通して栄養を摂ったり、機器を使って酸素を体に取り入れたり、たんを吸引したり、人工呼吸器により呼吸の管理をすることです。
Q4:他に取り組まれている研究はどのようなことでしょうか?
数年前から、『当事者』の状態や生活、環境を理解して必要な支援を検討するために、「事例まんが」を制作しています。制作した「事例まんが」をもとに、大学の授業、保健医療福祉専門職の研修、そして、一般の方々向けの普及啓発に活用できる教材を開発することに取り組んでいます。
研究成果のひとつとして、在宅療養をしているお年寄りの「事例まんが」のストーリーの一部を示します。授業では、動画とともに、ストーリー全体を用いて、この「事例まんが」の主人公に必要な看護を考えました。また、この動画を用い、小学生を対象として、お年寄りや認知症について考える授業を行いました。
ぜひ、動画もごらんになってみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=QtnsSqRrmw8
Q5:今後はどのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか?
今、手がけ始めたのは、介護ロボットの研究です。介護ロボットは、介護が必要なお年寄りやその家族、すなわち、『当事者』が生き生きと楽しく生活したり、活動をしていくときに大きなサポートになります。研究開発もとても進んでいて、みなさんの身の回りにも、「えっ、これもロボットだったの?」というものがたくさんあります。
でも、私は、『当事者』にとって本当に役に立っているのか?とか、安全に、十分に使いこなせているのか?ということには疑問を持っています。私は、介護ロボットは進化しても、常に、『当事者』の立場にたった検討と開発を進めていく必要があると考えています。
Q6:最後に入学をご検討されている方々へメッセージをお願いします。
私は、大学時代に卒業研究として取り組んだことは、とても楽しくて、こんなにも夢中になれることがあるのかと思いましたし、自分の世界が大きく拡がったと感じました。またそれによって人生が変わったと思っています。このことは、私の担当した卒業研究ゼミ生も同様の体験をしているようで、私と同じことを言っています。
研究に限らず、大学での出会いや体験は、何にも変えがたい宝物になります。
本学の看護学部でしか見つからない、あなたの宝物となるものをぜひ探しにきてください!